イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2013/06/28

雫石のヤマメと
イワナを巡って

2012年7月、岩手県

アングラー=伊藤 秀輝 & 大和 博
文と写真=佐藤 英喜

 日本全国どこの川もそうかもしれないが、雫石川水系では年々いいヤマメが釣れなくなってきている。もちろん自然が相手の釣りだから、いい時もあれば悪い時もあるのだけれど、雫石に生まれ育ち、長年このフィールドを深く見続けてきた大和博はその事実を誰よりも肌で感じている。


「例えば5、6年前と比べても、釣れる魚の数もサイズも明らかに落ちてるよね。尺ヤマメなんて本当に貴重な存在になってしまったよ」


 単純に魚が少なくなっているということは、釣られる数に対して魚の成長や供給が追い付いていないことが考えられる。魚が釣れないのはまず第一に放流をきちんとしていないからではないか、と誰もが一度は考えたことがあると思う。確かに現在のフィールドは放流事業なくしては成り立たない。


 以前も紹介したように、私達は伊藤秀輝が中心となって「雫石渓流会」という組織を作り、放流事業への関わりの他、違法な密漁、投網やヤスの使用などを取り締まるパトロール活動を行なっている。放流活動に関して言うと、稚魚の運搬と放流だけでなく、どうしたらもっと効果的な放流ができるのか、放流場所や時期、放流量など様々な論点から問題を提起し、漁協と話し合いを設けている。


 そうした活動を通して伊藤と大和が口を揃えるのは、「雫石の川にはヤマメが定着しづらい」ということだ。推測できる理由はいくつかある。まずひとつに放流されるヤマメの系統が、雫石の環境にマッチしていないのではないかということ。これに関して伊藤は、やはり雫石の川で生まれ育った、地着きのヤマメから採卵してその系統を放すのが最も望ましいと語る。もしそれが可能になれば、環境の厳しさに負けない強い系統のヤマメが他の河川の放流事業にも活かされるかもしれない。その実現に向けて、岩手県内水面水産技術センターと連携を図りながら、DNA鑑定を取り入れた天然種の実態調査を進めるなど、伊藤はすでに動き始めているわけだが、こうした活動が結果として実際の放流事業に反映されるまでにはまだまだ時間を要するのが実情である。


 ヤマメが定着しづらい理由は他にもある。河川工事によって淵という淵が次々と埋まり、川全体が浅くなっていること。深みや流れの緩急がなくなることで、魚やそのエサが安定してストックされる場所が目に見えて減っている。加えて毎年鉄砲水が出やすく、そのたびに魚やエサが下流へと流されてしまう。それによって死んでしまう個体も少なくないだろう。またヤマメ釣りを難しくしている要因として考えれば、本流の釣り場が多くのアユ釣り師に占有されポイントが空かないこともそのひとつに挙げられる。場所取りが過熱し、朝の早い時間帯からポイントが埋まってしまうことも少なくない。


 それらの要素が複合的に絡み、いいヤマメを釣ることがどんどん難しくなっている雫石の川だが、より良い釣り場環境を将来へ残していくために、雫石渓流会として今できることを地道にやっているところだ。その活動に関してはまた追ってレポートしたいと思う。

 さて、ここに紹介している写真は、伊藤と大和が釣り上げた雫石のイワナである。年々いいヤマメが少なくなっている雫石だが、ではイワナはどうなのか。以前にも触れたように、雫石を含む岩手や秋田の一部河川に放流されているイワナに関して伊藤は、ブルックトラウトとの交雑を指摘している。しかし、数は少ないながらネイティブを感じさせるワイルドで美しいイワナがまだ雫石にいることも、二人が手にした魚を見れば分かるだろう。


 普段、伊藤と大和が一緒に釣行することはほとんどないのだが、この日は偶然釣り場で顔を合わせた。二人ともイワナ狙いで同じポイントに目を付けていたのだ。渓流とは言えそこそこキャパシティのある区間だったため、「久々に一緒にやるか!」と相成ったのである。


 まずは大和が先行して釣り上がっていくと、ひとつめの大場所が現れた。上流からの瀬の流れが対岸にぶつかり、その絞りから徐々に流れが開いている。流れは複雑で底からの湧き上がりも強い。


 大和は迷わず、山夷50SタイプⅡをブッツケの白泡にキャストし、複雑に絡み合う流れをサイドクロスでゆっくりと探った。ミノーが川の中ほどに差し掛かった時、ギラリと魚影が翻った。ミノーをくわえた魚が全身をよじらせ、激しくのたうつのが見えた。「おっ、尺はあるな!」と伊藤の声が掛かる。大和が慎重にランディングしたのは険しい顔付きをした雄イワナ。サイズは37cm。野性味に溢れ、燻されたような渋い体色が印象的だった。

大和が釣り上げた野性味溢れるイワナ、37cm

  1. まずは先行して大和が1本。それに伊藤が続いた

「じゃあ、次は俺の番だな」


 そう言って伊藤が上流のポイントを探り始める。瀬脇の小さな弛みを見逃さずボウイ50Sを通すと、ギラギラとヒラを打つミノーにこれまたいいサイズの魚が口を使った。伊藤のネットに収まったのは、なんと先ほど大和が釣ったイワナと同寸の37cm。これもいかつい雄のイワナだ。立て続けのヒット、しかも仲良く同じサイズのイワナを釣り上げるという何とも幸せな結末に気を良くして、ワイワイと撮影する。大和のイワナに比べ、伊藤が釣り上げたイワナは体色が明るく、華やかな印象を受ける。共通しているのは薄っすらとオレンジに色付いた斑点が浮かんでいることで、伊藤のイワナについては胸ビレの一部にも濃いオレンジが飛んでいるのが興味深かった。

伊藤のイワナもこれまた37cm。仲良く同じサイズを釣り上げたのだった

 雫石の川を知り尽くす伊藤と大和の顔には、清々しい笑顔が浮かんでいる。


「ヤマメだけじゃなくこのイワナ達も、絶対に残していかなければいけない雫石の財産だよ」


 美しいイワナを見つめながら、二人がそう締めくくった。

TACKLE DATA

Hideki Ito
ROD Expert Custom EXC510ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance sight edition 5Lb/VARIVAS
LURE Bowie50S/ITO.CRAFT

 

Hiroshi Yamato
ROD Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3/ABU
LINE Super Trout Advance sight edition 5Lb/VARIVAS
LURE Yamai50S Type-Ⅱ/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


大和 博
Hiroshi Yamato

イトウクラフト フィールドスタッフ

1958年岩手県生まれ、岩手県在住。岩手県の雫石町で、濃密な自然に囲まれて育った釣り人。御所湖ができる前の驚異的に豊かだった頃の雫石川を知る生き字引でもある。山菜やキノコといった山の恵みにも明るく、季節ごとの楽しみを探しに頻繁に森へ通っている。川歩きと山歩きの長い経験が彼の釣りの基礎を形成する。