FROM FIELD
伊藤 大祐
FIELDISM
Published on 2014/03/28
サクラマスとPEライン
2013年春、岩手県
文と写真=佐藤英喜
昨シーズンの閉伊川で、伊藤大祐は2本のサクラマスを釣り上げた。振り返ってみるとその2本の魚の間には、ひとつの転換点があった。
どちらも同じロッド、同じリール、同じルアーで釣り上げた閉伊川のサクラマスだが、道具の面で唯一違ったのがリールに巻いていたラインだ。1本目のサクラマスはナイロンライン、2本目はPEラインでの釣果である。
一昨年まで大祐は、サクラマス釣りにPEラインを使うことはなかった。ナイロンラインに特に大きな不満を感じることもなく、それで十分に釣りが成り立っていたからだ。
その一方で渓流のヤマメ釣りでは2011年からPEラインを使い込んでいた。そこで感じたPEのメリットや独特の楽しさを、サクラマス釣りでも試してみたくなったのだ。
ロッド、リール、ルアーが同じでも、ラインひとつで全体のフィーリングは大きく変化する。むしろライン以外の要素が一緒だから、ナイロンとPE、それぞれの特徴を体感でハッキリと比べることができた。
まずは1本目のサクラマス。シーズンが開幕してすぐは、いつものナイロンラインを使った。使い慣れたナイロンで1本釣って、ナイロンのフィーリングをしっかりと思い出してからPEラインとの違いを確かめたかったのだ。
ポイントは淵。閉伊川らしく表層から中層にかけての押しが強い。WOOD85の18グラムをドリフトさせ、ここ!というスポットでリップに強く水を噛ませてヒラを打たせた。線で探るのではなく魚の目の前にルアーを送り込み、点で誘う。流れが速いため、食わせのタイミングが取れるのは上手くいって2回。そこに意識を集中させ、思い描いたスポットで太いサクラマスをヒットさせた。シーズンの初物に安堵と嬉しさが込み上げる。思惑通りに、まずはナイロンラインで1本。
そして、その翌週のこと。ラインをPEに巻き替え、大祐はふたたび閉伊川に立った。
サクラマス釣りでPEを使うのは初めてだったが、渓流で使い込んでいた感覚からイメージはできており、違和感なくスムーズに体に馴染んだと言う。
ナイロンとPEの違い。流れの中でWOOD85を操作し、率直に何を感じたか。
「想像はしてたけど、パッと霧が晴れて、視界が一気にクリアになった感じ。流れの様子、ルアーの泳ぎが鮮明に手元に伝わってくる。実際にPEを使ってみて、今までのナイロンの釣りにはモヤモヤした部分がすごく多かったことに改めて気付いた」
それと同時に、閉伊川のような押しの強い川でも、あるいは遠く離れたポイントであっても、水中のルアーをダイレクトに動かすことができるのもPEラインの特長だ。もともとWOOD85は、様々なヒラ打ちを自在に演出できる操縦性が大きな武器。細く伸びのないPEによって、そのヒラ打ちをより繊細にコントロールすることが可能になった。
「ヒラ打ちの振り幅やタイミング、その瞬間瞬間の細やかなニュアンスを、タイムラグなく、イメージ通りに演出できる。その楽しさはやっぱり大きいよね。PEとWOOD85の組み合わせによって、より渓流釣りに近い感覚でサクラマスが狙える」
誤解のないように付け加えると、単純にPEラインを使えばルアー操作が簡単になる、ということではない。PEの場合、あえて流れの抵抗を利用した誘いやライン自体の伸びを使った操作はできなくなるし、また遊びのないダイレクトな操作感を持つがゆえ、ミスの許容範囲が狭く、正確なイメージとそれを忠実に表現する神経の行き届いたロッドワークやリーリングが求められるのも事実。極端な言い方だが、操作した通りにルアーが動く、ということは、操作した通りにしか動かない、ということでもあるのだ。
さて、2本目のサクラマスの話。PEラインを使っての初釣行の日、ふと見ると、対岸のキワにサクラマスの着きそうなスポットがあった。遠投が必要なシチュエーションで、18グラムのWOOD85をフルキャストしてぎりぎり届く距離だ。
「ナイロンだったらスプーンを使ってたかも」
ここも流れの押しが強く、しかも畳一枚分もないくらいの小さなスポットだから、そこでルアーを止めて誘うことは難しい。対岸に渡ってダウンで釣れば話は別だが、川の状況的にそれは不可能だ。
残された選択肢は、ドリフト。流れを縦に流し、ロッドを立てながらトゥイッチでルアーを操作する。リーリングは余分な糸フケを巻き取るだけ。ドリフトさせながらも、WOOD85がヒラを打っている様子が手元にはっきりと伝わってくる。
ラインが一瞬、止まった。直後、サクラマスがルアーをくわえた感触が伝わった。ロッドを立てて操作していた分、アワセのストロークはショートになるが、それでも一回のアワセでフックのゲイブまで深く突き刺さったのが分かった。このフッキング性能もPEラインならでは。
「PEを使ってると、アワセを入れた時にフックがブツッと刺さる感じまで伝わってくる。ちゃんとフッキングしてるか心配になって追いアワセする必要もない。やり取りしてる時も、魚の動きや頭の向きが分かるから不安なく対処できるよね。あとは何と言っても、魚のファイトをじかに感じられるのがPEの面白いところ。この時は押しの強い瀬を下られたんだけど、ロッドのバット部分に感じるパワーが半端じゃなかった。あまりの衝撃にびっくりした(笑)」
もちろん、全ては個人の解釈次第だ。
たとえばナイロンには、ヒットした魚とやり取りする際、ライン自体の伸びがクッションの役割を果たしてくれるメリットが確かにある。一方でPEラインには、繊細な操作性や紙一重のショートバイトを取る感度とフッキング性能がある。それと背中合わせに、PEは竿さばきにミスができないシビアさも付きまとう。それぞれのラインに長所と短所が存在している。
大祐はサクラマスに対して、「釣りたい」というより「勝負したい」という気持ちのほうが強いと言う。だから今年もPEラインを選択する。サクラマスと自分の釣り、それ以外の要素をできるだけ排除して、サクラマスとの一対一の勝負を純粋に楽しみたいのだ。
TACKLE DATA
ROD | Expert Custom EXC780MX/ITO.CRAFT |
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REEL | LUVIAS 2500 /DAIWA |
LINE | [Nylon]Super Trout Advance Big Trout 12Lb/VARIVAS |
[PE]Avani Sea Bass PE 1.5 | |
LEADER | Trout Shock Leader 16Lb/VARIVAS |
LURE | Wood 85・18g /ITO.CRAFT |
ANGLER
伊藤 大祐 Daisuke Ito
イトウクラフト スタッフ
1982年岩手県生まれ、岩手県在住。幼少期から渓流の釣りに触れる。「釣りキチ三平」の影響も大きく、エサ釣り、テンカラ、フライ、バス釣りなど様々な釣りを経験する。工業デザインやCGを学んだあと、デザイン会社での経験を経てイトウクラフトに入社。自社製品の製作を手掛けるかたわら、商品開発/試作/テスト/ウェブ/各種パッケージ/広告/カタログ/などのデザインも行なっている。