イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/04/19

色取月ゆるゆる陸奥紀行
其の一
「約束の川へ……!」

2010年8月某日、岩手県
文とイラスト=うぬまいちろう
写真=佐藤英喜

 九月……。

 古く陰暦では色取月(いろどりづき)と呼ばれたのがこの月である。

 文字通り、木の葉に色が付く頃……、という意味を現すこの言葉であるが、川釣り酔狂の御仁には、ヤマメちゃんやイワナちゃんが鮮やかな婚姻色に彩られる頃……、といったほうが話が早くピン!と来るに違いない。

 ちなみに色気付くというコトバがあるが、ことおサカナちゃんに限っては、実にうまいはまり文句であるなと、感心することしきりである。

 ビビッドに染まった秋の渓流魚は、

「ビンビンっす!お盛んですよぉ?!」

という状態の証であり、色気付くというコトバの意味を察すると、誠にさもありなんである。

「ニンゲン様も婚姻色に染まったら解りやすいのに……」

 なんてことを考えるとムフフとなるのであるが、そんなことを考えてはいけないのだ。襟を正して凛と生きねば……。

 そんな話題豊富な色取月であるが、今期はなにかおかしい。今年の秋の訪れはその足が遅く、おサカナちゃんは果たして色気付いているのかしら?と心配になるのである。

 梅雨明けの発表もなく、夏らしい夏もなかった陸奥であるが、川崎の築二十余年を数える傾き借家から、遠く約束の地へと急ぐ愛車、フォルクスワーゲンT-4ウェスティーの窓から眺める奥羽山脈の山々は、まだ青々として連なり夏の装いのままで、山の緑のようなT-4のボディーカラー、カリビアングリーンに反射するお天道様のギラギラとした輝きも至って力強く、秋の少し控えめなそれではなかった……。

 それにしても陸奥への路は遠く、レッド・ツェッペリン、アート・ブレイキー&ジャズメセンジャーズ、ジェフ・ベック、セルジオメンデス、ライ・クーダー、ジャック・ウィルキンス、そしてキヨこと尾崎紀世彦大先生……と、著名なるアーティスト達が、その素晴らしき奏法で各々の名曲を奏でるのであるが、果たしてヘビーローテーションを経て、CDチェンジャーはここに至るまで、カチャカチャとせわしくも何周したことであろうか……。

 特筆すべきはその配列である。ノン・ジャンル、ノールールーのバーリートゥドゥ的にチェンジャーに詰め込まれた彼らの、めくるめく饗宴は、実は至極オツムによろしいのである。

「こ、これ全部うぬまさんが聞くのですか?」

と、その脈絡無い選曲で同乗者に首を傾げられること度々の、ボクの奇特なドライブナンバーのチョイスだが、ヘビーロックにジャズ、ボッサに昭和歌謡と、あまりにもデタラメで突飛なる音の組み合わせは、常に奇天烈でお脳にチクチクと刺激を与えるがゆえに、ほどよく眠れなくなるのだ。これってロングドライブでは命を守る大切な配列なのである……。

 さて、かようなBGMに包まれ、T-4ウェスティーにて『約束の川』へと急ぐボク。

「したっけはぁ、朝の6時にナナナン川のカカカン橋のところでねぇ?!」

 なんて、陸奥のアニキこと伊藤さんと堅い約束をしたからには、四面楚歌の夜討ち朝駆けでも駆けつけなければならない……。アニキとの約束は、山の岩よりも硬く、川の流れのように清らかで、大海よりも深いのだ……。

 ちなみにアニキとの釣りはずいぶんと久しぶりで、かれこれ6年越しとなる一大イベントなのである。

 遡ること14年前の奇しくも色取月。

 猿ヶ石川のほとりで、ひょんなことからアニキに声をかけていただいたのが、この素晴らしき縁の始まりである……。

 それ以来年に二回、春と秋には必ず陸奥を訪れ、岩手、秋田の流れを二人で行脚し、共に泣き笑いしながら、大いなるフィッシングトリップの世界で、アニキと気を吐いて来たボクである。

 その素晴らしき思い出は華胥の夢(かしょのゆめ)の如く、ボクの魂の歯車を回す永久機関の動力となり、社会の荒波に翻弄されて凹んだときには、母なる流れの甘き水のように、渇いた心をたっぷりと潤わせてくれるのである。

 しかしながらこの世知辛い世の中、ボクは、種々雑多な事情から、かつてのように放蕩を繰り返すことができなくなり、木漏れ日に煌めく陸奥の流れに思いを馳せ、哀しいかな悶々と、渇きの日々を過ごしていた次第である……。


(ITO.CRAFTのコラム初、ナントおサカナの写真掲載無しのまま、第二部に続く……、許せ!&好ご期待!)


 良き釣りと良き旅を……。

 ラヴアンドピース!

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT
REEL Luvias 2000/DAIWA
LINE Applaud Saltmax Type-S 4Lb/SANYO NYLON
LURE Emishi 50S & 50S Type-Ⅱ/ITO.CRAFT

ANGLER


うぬまいちろう Ichiro Unuma


イラストレーター

1964年、神奈川県生まれ。メインワークのイラスト制作のほか、ライター、フォトグラファーとしても各メディアで活躍中。日本各地をゆるゆると旅しながら、車、アウトドア、食、文化風習などをテーマにハッピーなライフスタイルを独自の視点から伝えている。釣りビジョン「トラウトキング」司会進行。モーターマガジン誌の連載「クルマでゆるゆる日本回遊記」では、キャンピングカーで日本一周の旅を敢行中。