イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2007/09/19

イトウガイドサービス
妄想編

2007年8月12~13日、岩手と秋田の川
写真と文=丹律章

 盆休みを利用して伊藤秀輝さんと釣りをした。伊藤さんの実績河川を案内してもらいながら数匹のヤマメを釣った。そしてふと思った。こういうサービスに値段をつけたらいくらくらいするのだろう。ガイドフィッシング。一般的な値段は、ガイド1人に客が2名で3~4万円くらいだろうか。そんなことを言っていたら、伊藤さんが口を挟んだ。「うちはそんなに安くないぞ。料金は1日10万円から、だな(笑)」。こんなバカ話からこのストーリーは生まれた。釣果や写真は実際のものだが、もちろんストーリーはウソ。イトウガイドサービスは実在しないので念のため。


 岩手や秋田の渓流をメインフィールドにするイトウガイドサービスは、確実な釣果でも有名だが、その料金設定の高さでも有名だ。1日のガイド料金は10万円。この料金で2名までのガイドをしてくれる。しかしイトウガイドサービスの怖いのはここから先で、いろいろなオプションが設定されていて、いつの間にやら支払い料金は膨れ上がっていることが多いのだ。


 早朝4時。伊藤さんが車で迎えに来てくれる。


「お客様、本日はイトウガイドサービスのご利用ありがとうございます。ところで、本日はスタンダードコースでよろしいですか?」


 なに、スタンダードコースって? 聞いてないんですけど。


「当ガイドサービスでは、スタンダードコースのほかに、Aコース、Sコースというオプショネルコースを用意いたしております。スタンダードは本流や有名支流などで、もちろん魚はたくさんいますが最近のフィッシングプレッシャーで、大変釣りにくくなっております。Aになりますと、決してガイドブックには載ることのない支流で、もちろん魚影はスタンダードの比ではありません。Sコースになりますと、地元の釣り人にもあまり知られていない秘密の支流を回るもので、スタンダードやAコースよりさらに魚影は濃く、人も入らないためにヤマメの反応もとびきりです」


 なるほど。それで料金の方は?


「Aコースで1万円増し、Sコースで3万円増しとなっております」


 せっかくの遠征で釣れないのは困る。ちょっと迷ったがSコースを奮発し、伊藤さんの車に乗り込む。しばらくすると車は舗装路をはずれ、山の中へぐいぐい進んでいく。

 

 到着したのは、左右から張り出した藪に覆われそうな林道の途中。車を強引に止めるとアブが大量に寄ってきた。しまった。この暑さで、長袖シャツを家に忘れてきた。


「長袖シャツのレンタルもございますが」


 伊藤さんが、薄手のシャツを手に持っている。ラベルを盗み見るとそれはユニクロの製品。販売価格は3000円程度のはずだが、レンタルは1日1500円だという。ちょっと高いなと不平を言うと、いやならいいんですとシャツをしまいかけた。いやいやそういうわけにはいかない。アブより1500円だ。僕は袖を通した。


 踏み跡のない藪の中を、漕ぐようにして10分ほど歩き、川原にたどり着いた。先行者の気配のない、知る人ぞ知る渓流だ。淵にミノーを投げると、小さなヤマメがすぐに反応した。


 それにしてもアブがうるさい。長袖で腕は覆われているものの、手の甲や首、顔などは無防備にさらされている。

 

「ひと吹き1秒で50円になりますが」


 後ろで伊藤さんが言う。振り返ると、フマキラーを手に伊藤さんが微笑んでいた。その後は、アブが寄ってくるたびに伊藤さんにお願いして、シューとひと吹き。おかげで釣りに集中できる。悪くないサービスだが、やはり高すぎる感は否めない。

 釣りを続けていると、困ったことに気がついた。暑さでナイロンラインがやわらかくなっているのも一因なのだろうか、ユニノットでルアーのラインを結ぶと、最後の締め付けのところでラインに変なテンションが掛かり、ルアーのラインアイから3センチほどがカールしてしまうのである。そのせいで、ルアーの腹フックが頻繁にラインを拾ってしまう。


「結びましょうか?」


 伊藤さんが後ろから言う。素直に結んでもらうと、ラインは見事に一直線で、トラブルもなさそうに見える。


「1回50円です」


 まあ、それくらなら安いもんだ。

ライン結びサービス。後ろはサポート役の吉川さん


 大きな堰堤に行き着いた。20分ほど粘るがコッパヤマメが1匹釣れただけに終わった。


「おかしいですね。もっといるはずなんですが。ちょっとやってみていいですか」


 伊藤さんがこの日初めて自分のロッドにルアーを結んだ。そして3キャスト目。いいサイズのヤマメがルアーを追った。


「やっぱりいましたね。このプールのヤマメはなぜかアユカラーのルアーによく反応するんです」


 僕のルアーワレットにアユカラーは見当たらない。


「販売用ルアーも揃えてございますが」


 欲しい欲しい。アユカラーください。


「現場売りは、定価の倍ですがよろしいですか?」


 定価の倍は高かったが、おかげで25センチほどのヤマメを釣り上げることができて、一応満足した。

 

  1. 釣果を手に。撮影は無料でしてくれる

 


 昼をずいぶん回ってから、食事タイムになった。Sコースの場合は、コンビニ弁当ではなくジンギスカンの食事が提供される。釣りの食事はおにぎりかパンかカップラーメンが定番の僕にとって、かなり満足できる食事だ。しかし、これにもオプションがあった。


「天然カジカの塩焼きと、利尻ウニの用意がございますが」


 恐る恐る聞いてみる。いくらなんでしょう。


「こちらは時価となっておりますが、本日の場合ですと、カジカは1匹500円、ウニは1パック5000円となります」


 もうこうなったらやけだ。全部食ってやる。ついでにビールも持ってこい!

 

 ビールをたらふく飲んだせいで、午後の釣りは早々に中断し、エアコンの効いた車内で昼寝タイムとなってしまった。昼寝中のエアコンは、28度設定で1時間300円。1度設定を下げるごとに、100円追加である。


 1日の釣りが終わり、ガイド料金を清算して家まで送ってもらう。総額いくらになったかはここには書きたくないが、一瞬立ちくらみしそうになったことを付け加えておく。立ちくらみの原因はこの夏一番の猛暑だけではないはずだ。


 ちなみに、イトウガイドサービスではクレジットカードは使えない。現金の持ち合わせがなかった場合は、イトウクラフトの工場で、しばらくこき使われることになるという噂なので、くれぐれも現金は多めに用意するように。  FIN

TACKLE DATA

ROD EXPERT CUSTOM EXC510PUL / ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3 / ZEBCO
LURE BALSA 蝦夷50S

ANGLER


丹 律章 Nobuaki Tan


ライター

1966年岩手県生まれ、神奈川県在住。フリーランスライター。「ルアーフリーク」「トラウティスト」の編集を経て、1999年フリーに。トラウトやソルトのルアー、フライ雑誌の記事を多く手掛ける。伊藤秀輝とは「ルアーフリーク」の編集時代に知り合い、25年以上の付き合いになる。