イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2011/09/16

小渓流のゴーロク

2010年9月中旬、岩手県
アングラー=伊藤 秀輝
文と写真=佐藤 英喜

 山岳渓流のヤマメ釣りで昨年の伊藤秀輝は、あえて5ft6inのロッドを握ることが多かった。その意図、ゴーイチとゴーロクの違いについては今年度のカタログで取り上げられているがカタログを手にしていない方のために、そのテキストを以下に掲載。


 まずはゴーイチの話から。


 渓流のアップストリームの釣りにおいて、伊藤が現場で辿り着いた言わば必然のロッドレングスが5ft1inである。


「アップで釣る川というのは、大概が山間を走るブッシュの多い渓流で、まずロケーション的にキャストもトゥイッチもコンパクトに行なう必要があるよね。それに、ミノーを追ってどんどん近づいてくる魚に対して、こっちの存在を悟られないように一切無駄な動きをせず、且つ、魚をミノーへ集中させておくために誘いを掛け続けなければならない。チェイスしたヤマメを目で追いながら、決めるべきアクションを次々と展開する。そこで極端な話、手を2cm動かしたら2cmミノーが動くような、ファーストテーパーのショートロッドが必要だったんだ。それとゴーイチは、追ってきた魚を足下ぎりぎりまで誘えるレングスでもあるし、また手返し的にも有利だよね」


 必要最低限のしなりと溜めを残しつつ、高い操作性と取り回しの良さを追求した結果が、エキスパートカスタムのゴーイチなのである。


 しかし昨シーズンの伊藤は本来ゴーイチで釣り上がる川に、EXC560UUXを持ち込むことが珍しくなかった。


 なんでも「アップの釣りに新しい楽しみを見つけたから」であるらしい。


 アップストリームの川であえてゴーロクを振る楽しさ、メリットとは何か?


「まず、トルクフルなストロークがある分、飛距離はラクに出せるよね。バルサ蝦夷のような軽めのルアーでも、しっかりとした弾道を作りやすい。このバルサの扱いやすさというのが、ここ最近のシビアな状況では特に大きかった。軽量ミノーをよりパワフルなロッドで投げるのは逆に大変なように思われるかもしれないけど、それはキャストの仕方次第で、ULXのバットを空振りでマックスまで曲げるキャストができれば、結局は1gでも2gのルアーでもロッドの反発力でぶっ飛んでいくんだよ」


 また、ロッドが長い分だけ周囲のボサが邪魔になるのは事実として、その長さがあるからこそかわせるボサもある。ゴーロクだからこそ通せる隙間があるのだ。それに気付くと、ゴーロクにもラクで楽しい部分が多いと言う。誘いを掛けているときも手前にある岩や障害物をかわしやすい。


「それとね、速いテンポで次々とキャストするから、多少体の軸がずれた体勢で投げることもあるんだけど、バックスイングでゴーイチより長く溜めておける分、リリースの瞬間までに修正や微調整がしやすいんだ。リリースの微妙なタイミングも掴みやすい。ゴーロクを使うといろんな意味で、『余裕』が生まれるんだよね。もちろん魚とのやり取りもじっくり楽しめるし」

昨年、伊藤はゴーイチの川でもあえてゴーロクを使うことが多かった。この36cmの見事なヤマメもEXC560ULXで釣り上げたのだった

 取り回しの面など、ロッドが長いことのデメリットはどうするのか? という問いに対しては「技術で克服」とズバリ。彼のなかでは基本中の基本だが、360度どの角度からも手首だけでキャストできればずいぶんカバーできると言う。


「小渓流にゴーロクを持ち込んで改めて感じるのは、ゴーイチの釣りはレーシングスタイルだなと。少しのロスも許されない、っていうね。いい魚を見つけて本気で食わせにいくときはゴーイチだし、例えばいい釣りをした後、もっと余裕のある釣りを楽しみたいというときにはゴーロクを使う。最近はどっちも捨てがたいね。2つのレングスを使い分けることでアップの釣りがまた違った角度から楽しめるんだよ」

サイズもいいが、この個性的な美しさに思わず目が釘付けになる


――― 2011 ITO.CRAFT商品カタログより

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC560ULX/ITO.CRAFT
REEL Cardinal 3 /ABU
LINE Super Trout Advance 5Lb/VARIVAS
LURE Emishi 50S Type-Ⅱ[AU]/ITO.CRAFT
LANDING NET North Buck/ITO.CRAFT

ANGLER


伊藤 秀輝 Hideki Ito


1959年岩手県生まれ、岩手県在住。「ルアーフリーク」「トラウティスト」などのトラウト雑誌を通じてルアーフィッシングの可能性を提案してきたルアーアングラー。サクラマスや本流のスーパーヤマメを狙う釣りも好むが、自身の釣りの核をなしているのは山岳渓流のヤマメ釣りで、野性の美しさを凝縮した在来の渓流魚と、それを育んだ東北の厳しい自然に魅せられている。魚だけでなく、山菜やキノコ、高山植物など山の事情全般に詳しい。
2023年12月6日、逝去。享年65歳。