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FROM FIELD TOP>■釣行記 II (#06~10)
PROFILE
いとうひでき。ITO.CRAFTがリリースするロッドやルアーは、アングラーとしての彼がフィードバックし、クラフトマンとしての彼がデザインして生まれる。サクラマスやギンケしたスーパーヤマメを狙う本流の釣りも大好きだが、根っこにあるのはやはり山岳渓流のヤマメ釣りだ。魚だけでなく、高山植物など山のこと全般に詳しい。野性の美しさを凝縮した在来種のトラウトと、それを育む東北の厳しい自然に魅せられている。1959年生まれ。

「大型だけに狙いを絞る」 伊藤秀輝 #10
2007年8月10日、岩手県
写真=伊藤秀輝
文=丹律章

タックルデータ
ロッド:イトウクラフト/エキスパートカスタムEXC510ULX
リール:アブ/カーディナル3
ライン:バリバス/スーパートラウトアドバンス 5ポンド
ルアー:イトウクラフト/蝦夷50SタイプⅡ AU



「今のルアーフィッシングブームの大きな原因のひとつは、ミノーだ」
 伊藤は、確信を持っている。
「これだけ渓流で使えるミノーが増えて、その結果、魚が釣りやすくなったんだよ。前はさ、スプーンだったわけ。スプーンっていうのは、難しいんだよ。ミノーに比べると」
 どんなルアーでも、ミノーでもスプーンでもスピナーでも、うまく泳ぐための水の抵抗というのがある。簡単に言うとリーリングのスピードだ。早すぎれば水面から飛び出てしまったり、遅いと泳がなかったりする。
「スピナーだって、ブレットンと、ウィローリーフブレードのルースターテールとでは、適したスピードが違うでしょ。デッドスローでしか使えないスプーンを早く引いたら回転してしまうんだしさ。そしてスプーンっていうのは、うまく泳ぐスピードの幅が狭いんだよ。もちろんモノによって違うし。ところがミノーはそれが広くて、ある程度早くても遅くても、なんとか泳いでくれる。ストライクゾーンが広いんだな。だからスピードでちょっとミスっても、釣れるかもしれないし、ミスしたことに自分も気がつかない。たとえば、渓流に2人で入って、先に釣りをさせた後で、後からでも魚が釣れるというのはそこ。そのルアーが一番よく泳ぐスピードを分かっているか分かっていないかという点だね。それによって釣り残される魚はいるし、スピードが合ってなくても釣れる魚も何匹かはいるということ」
 20年前は、渓流用のミノーは存在しなかった。誰もがスプーンやスピナーを使っていた。ある程度使いこなせるようにならないと魚は釣れなかったから、ビギナーはほとんど魚を手にしないまま、釣りをやめてしまうことも多かった。
 今は違う。渓流用のミノーは各社から発売されているし、イトウクラフトに限定しても、蝦夷、ディープ、タイプⅡ、山夷とラインナップは豊富だ。
 2007年8月10日。
 伊藤は、小さな渓流を訪れた。蝦夷タイプⅡをラインに結ぶ。5日前に36を釣った同じ川、その上流である。もしかしたら、まだいいサイズがいるかもしれないなと思って、同じ川に入ったのだ。
 伊藤は、7月ぐらいから、でかいヤマメを本気で狙い始める。狙っているサイズは、35くらいから上だ。
「34から35センチくらい、とりあえずそれを狙って釣りをしているんだ。尺前後の魚と35クラスの魚っていうのは全然違うわけ。もちろん35と40ってのもかなり違うんだけど。だから、淵がひとつあったら、狙うのはその淵にいる魚の中で一番大きい魚ということになる。一番大きいやつってのは、一番強いから、当然、一番いい場所に陣取っている。流れの様子からその着き場を推測して、1投目でそこに投げてやる。手前の2級ポイントから順番に攻めていったら、2級ポイントにいた魚を掛けた時点で、その淵は終わりになるからね」
 大きい魚は警戒心が強い。だから最初からその魚を狙わなければ釣れっこない。
 その日、土壁の岩盤の一番いいポイントにルアーを投げると、1投目でヤマメが岩盤の際から姿を現した。ルアーの後方に、チェイスする魚の白い反射が見えた。
「キラッキラッっていうヤマメの反転するアクションが3回くらいあって、直後にルアーをくわえた」
 ヒットした瞬間は、最初は幅広のオスだと伊藤は思った。
「でも、3mくらい近づいたときに、メスだって分かった。あーって思ったけど、きれいな色と幅広の魚体なので、それでもいいかと」
 魚の活性としては悪くなかったという。
「釣りとしては、いろいろな引き出しを開けるまでもなく、比較的簡単に結果が出た釣りだったね」
 その他にも、尺クラスが2本釣れたというから、その日はその周辺のエリアが、ヤマメの遡上とばっちり合ったってことだろう。そのエリアを、偶然ではなく見つけてしまうのもまた、釣り人の技量のうちなのだ。  FIN

ライターの付記
 しかしまあ、タイプⅡの威力というのは凄いもんです。でもあれですね、沈みが速いということは、根掛かりの危険性も高いわけで、おっかなびっくり沈めずに使っていると、魚も釣れません。僕が釣れないのは、それだけが理由ではないと思いますけど。









「渓流ミノーの使い分け」 伊藤秀輝 #09
2007年8月7日、岩手県
写真=伊藤秀輝
文=丹律章

タックルデータ
ロッド:イトウクラフト/エキスパートカスタムEXC510ULX
リール:アブ/カーディナル3
ライン:バリバス/スーパートラウトアドバンス 5ポンド
ルアー:イトウクラフト/蝦夷50SタイプⅡ AU



 2007年。雫石川水系の本流エリアは、早朝からどこもかしこもアユ釣り師に占領されて、トラウトの釣りはまったく不可能だった。雫石のアユがいかに美味であるか、それが知れ渡り、東北各地のみならず、日本各地からアユ釣り師が押し寄せたのである。だから、トラウトを狙う釣り人は、上流部や支流に流れていくしかない。
 その日の昼休み、伊藤は「川見てくる」と言い残して、会社を出た。
 ちょうどいい具合に、前の日に雨が降った。だから、午前中仕事をしながら川の様子がずっと気になっていたのである。アユ釣り師が入らない上流部を目指しつつ、途中の橋から川を見る。案の定、流れは最高の状態だった。
 もちろんロッドは車に積んでいた。
 大物が着きそうな、大きな淵の近くに車を止める。釣り支度を済ませ、川へ。
 淵の頭、落ち込みの横にでかい岩が張り出している。ルアーを投げると、その岩の下から大きな魚影が姿を現した。ルアーを追うが、食うのが下手でルアーの動きとなかなかタイミングが合わない。伊藤はもっとルアーをゆっくり泳がせてやって、3度目で食わせることに成功した。すぐに撮影のために仲間を呼ぶ。その日はわずか10投くらいしかルアーを投げなかったという。
 イワナは47センチ。ルアーは蝦夷タイプⅡ。魚のタナを直撃するこのミノーの発売は、伊藤のみならず、多くのトラウト釣り師に、素晴らしい出会いをプレゼントしてくれたはずだ。
 タイプⅡは素晴らしいルアーだ。ある程度ふところのある淵であれば、魚、特に大型のやつは表層に浮いていることはまずない。となると、より深い層で活躍するタイプⅡは、魚を誘う道具としては理にかなっている。となると、タイプⅡは万能ルアーなのだろうか。
「確かに手っ取り早いのはタイプⅡだろうね」
 そう前置きして、伊藤は続ける。
「魚の目の前を通過する可能性が高いだけに、どんぴしゃにハマればそれで食ってくる可能性が高いわけだけど、もしそこで、トレースコースとか、アクションのミスをした場合に、ルアーが近くを通過するだけに、魚をすれさせる力も強いわけ」
 しかも、あえてタイプⅡではなく、蝦夷50Sを使って、不利な条件の中でテクニックを尽くして釣りたい、そういう人もいるだろうと伊藤は言う。
「野球で言えば、ここでフォークボールを投げれば三振取れる可能性はかなり高いけれど、でもこのバッターは、絶対に直球で三振に取りたいみたいなさ」
 魚のタナを直撃するのではなく、やや離れた位置を通過させながら、激しいアクションで魚を怒らせ、反応させる。タイプⅡではなく、蝦夷50Sを使って。そうして、技術で釣り上げた魚には、満足度も高いという。
「確かにさ、タイプⅡはいいルアーなんだよ。でもね、2007年に釣った魚は、メスが多いんだ。今まではタイプⅡが無かったから、タナが合わなくても、挑発して、いらいらさせて、怒らせた挙句にヒットすることが多かった。オスの方が怒りやすいからね。でもタイプⅡなら、タナが合ってしまうからメスも食ってくる。だから、あえて蝦夷50Sだけを使えば、全体の数は減るかもしれないけれど、オスの捕獲率は高くなると思うよ」
 そして、オスを怒らせるために抜群のアピールを持つ、あのルアーの復刻も決定した。2004年に現在の蝦夷に後を譲った、Ⅰ型の蝦夷50Sである(Ⅰ型とか初期型と呼ばれることが多いが、この文中ではⅠ型で統一する。発売に向けての正式名称は未定)。
「ずる賢くなった魚を釣るには、魚を興奮させるテクニックとそれを効果的に演出できるルアーがないと難しい。あれは、魚を怒らせるアクションをもったルアーだからね」
 Ⅰ型復刻の詳細は、後ほどこのサイトで。  FIN

ライターの付記
 メスが多くても、僕はタイプⅡを使いたいです。その方が尺上ヤマメを釣り上げる確率は高いだろうから。とういより、三振にとれるんだったら、危険な直球を投げるより、フォークボールでいいんです。なんなら、内野ゴロでも、外野フライでも、アウトにできればそれでいい。いけませんか?










「8月の3投目のタイプⅡ その②」 伊藤秀輝 #08
2007年8月5日、岩手県
写真=伊藤秀輝
文=丹律章

タックルデータ
ロッド:イトウクラフト/エキスパートカスタムEXC510ULX
リール:アブ/カーディナル3
ライン:バリバス/スーパートラウトアドバンス 5ポンド
ルアー:イトウクラフト/蝦夷50SタイプⅡ AU



 大和博を大ヤマメが潜むであろうと思われる淵へ残し、伊藤秀輝は数10メートル先の、3つ上の淵に向かった。
 伊藤は言う。
「この川は、人工的なものが少ないのがいい。護岸とかほとんど見当たらないし、コンクリートは橋の周辺だけだから」
 そういう自然が、川を、ヤマメを守っている。
「しかも、大きくて深い淵が比較的あるんだよ。下流はニゴイの猛襲にあってしまうことが多くて、上に行くと流れが分かれてしまって水が極端に少なくなるから、トラウトの釣りに適した区間っていうのはそれほど長くはない。でも、その間にいい流れがあって、いい淵がある」
 伊藤の目の前にも、懐のある、大きな淵が待ち構えていた。
 淵の先端、落ち込みにルアーを放り込み、深みへと落ちる流れを利用して、ルアーを沈ませてやる。そして糸ふけを取るようにしてロッドアクションを掛けながら、ゆっくりと流れの中を引いてくる。ルアーの泳層は水面から1mほどだったという。
「全く同じ引き方をして、3投目に食ったね」
 ルアーは、水面から1mの深さを泳ぐ。だから、それを追ってくる、もしくは底から浮上してくる魚の姿は見えない。
「でも、分るんだよな。大体どの辺でヒットするのか予想がつくから、だからアワセのタイミングも合うのさ」
 淵のおおよその深さ、長さ、どのあたりまで流れに勢いがあるか、魚の着き場がどのあたりで、ルアーが今この辺を泳いでいるから、魚がいるのだとしたら、食ってくるのは……大体このあたり。
 ただ漠然とキャストをして、何の準備も無いところにバイトがあっても、瞬時にアワせることは難しい。だが、食ってくる場所が予想できれば話は違う。だから、バイトに対して瞬時にロッドを跳ね上げることが可能なのだ。
「食った瞬間に、反転した姿を見てサイズが分って、これは下の淵にいたヤマメだなって思った」
 移動してきてたのか、と。なぜなら、その川は、そのサイズがたくさん育つほどのキャパシティを持つ川ではないからだ。だから、その前後の区間を含めて、そのサイズが何匹もいるはずがない。
「雫石川っていうのはさ、それほどスーパーヤマメがたくさんいる川じゃないんだよ。放流されている種も、それほど育ちの早い種類じゃないし。だから、でかいヤマメを釣るなら、稗貫とか下猿とか、ああいう川を夏にやった方が効率はいいと思うんだ。オレは、雫石に工場を作ってから通いこんで、もちろんそれまでに盛岡から通っていた頃の下地もあって、それでパターンなり、特徴なり掴んだからこうして大ヤマメに出会えている。これだけ通いこんだからこそ、出会えている魚なんだよ」
 その言葉どおり、そこから上流も探ってみたが、釣れたのは尺に満たないヤマメだけだった。
 大和に譲ったつもりだった大ヤマメは、36センチのメスだった。
「タイプⅡじゃなくても、普通のシンキングの蝦夷でも、釣る方法はある。でも、タイプⅡの方が釣りやすい魚ではあったと思う。もしかして、7月後半の段階でタイプⅡが使えていて、あの淵で使っていたら、小さいオスヤマメに横取りされずに、あの大ヤマメが食っていたのかもしれないし」
 タイプⅡの誕生によって、僕らトラウトのルアーマンの前には新たな地平が開かれた。
「これまでうまくルアーを沈められず、でかい魚を逃していた人にまで、淵の大ヤマメが釣れる可能性が高くなったと思うんだ。タイプⅡはオートマチックに沈んでくれるわけだから。もちろんその分根掛りの可能性も増えるけどね。さらに、これまで蝦夷50Sをきちんと使いこなせていた人にとっては、より短い距離と時間で沈めることが可能となり、さらに大ヤマメが近づいたはず」
 ヤマメにとっては、受難の時代だ。  FIN








「全力ヤマメ」 伊藤秀輝 #07
2007年8月2日、岩手県
写真=伊藤秀輝
文=丹律章

タックルデータ
ロッド:イトウクラフト/エキスパートカスタムEXC600ULX
リール:アブ/カーディナル3
ライン:バリバス/スーパートラウトアドバンス 5ポンド
ルアー:イトウクラフト/蝦夷50SタイプII



「この魚は、難しい魚だったね。あの手この手を尽くして、自分の今までの経験と積み重ねてきたものを全て使って、やっと捕れた魚。最終的に8月2日の夕方に釣ったんだけど、この魚を見つけたのはその4日前の7月29日だったんだ」
 夏になり、雫石川水系のアユ釣りは絶好調を迎えていた。
渇水が続き釣りがしやすく数も釣れ、しかも雫石川のアユは味がいいため、県内外からアユ釣りファンが押し寄せる。本流は早朝からアユ釣り師に占領された形となっていた。
「まあ、それも仕方ないんだけどさ」
 下流部は本当に釣りする隙間がないので、必然的に上の方でやることになる。
 そろそろいい型のヤマメが上ってくる時期だなと、伊藤秀輝が実績ポイントの様子を見に行ったのは7月29日の朝だった。
「左岸にボサがあってね。その下にヤマメが隠れていることが多いんだよ。それでルアーを投げてみたら、案の定いいサイズのヤマメが追ってきたんだ」
 だがそのヤマメは、ルアーに興味を示すものの、なかなか食いつかない。
「ルアーから、30~40センチの距離をおいて追って来たときに、その距離を10センチに縮めるために、ちょっと派手なトゥイッチングを入れることが多いんだけど、それをしたらビューって逃げちゃったんだよ。だからといって、トゥイッチングを止めるとそれはそれで興味なさそうに戻っていくんだけどね」
 さほど手数を出さなくても簡単に釣れるヤマメもいれば、手を換え品を換えてやっと口を使うヤマメもいる。それは個々の性質の違いなのだと伊藤は言う。
 トゥイッチングのピッチを細かくしたり、スピードを変えたり、おとなしめのトゥイッチングにしたりして、伊藤はヤマメを誘った。最後に1度だけ、5センチの距離まで近づいてルアーに食いつくようなそぶりを見せたが、ヤマメは口を開かずに鼻先でルアーに体当たりしてボサの中へ戻ってしまった。
「それから10分くらい攻めたんだけど、そのうちに着き場を変えちゃったんだ。居場所を変えるってことは、かなり怖がっているってことだから、それ以上攻めることはせずに、その日の釣りは終わったわけ」
 これで伊藤の闘争本能に火がついた。
 釣れない魚がいた。一度だけ体当たりしたが、最後まで口を使うことはなかった。何とかしてあのヤマメを釣らなくてはならない。負けるわけにはいかない。意地でも釣らなければ……。
 仕事が忙しくてその後3日間は釣りに行けず、ようやく時間が作れたのは2日の早朝だった。しかし、午前中に外せない用事があったため釣りができる時間は限られていた、ぎりぎりまで粘ったが、この時もヤマメをヒットさせることはできなかった。
 そして用事を済ませた夕方。
 普通の釣りではこのヤマメがヒットすることはないと判断した伊藤は、立ち位置を上流にとり、ダウンでヤマメの鼻先にルアーを送り込んだ。
「ヤマメのいる場所は、それまでのやり取りで分かっているから、その鼻先にルアーを送り込んで、細かいトゥイッチングとルアーの上下動で食わせたのさ。5投目で食ったね。タイプ2を使っていたから、ルアー自体のキャパシティは大きいし、だから捕れた魚かもしれない」
 写真撮影のとき、伊藤は初日の体当たりの理由を知ることになる。
「フックのアイが折れた状態で、誰かのトリプルフックが口の中に残っていたんだ。だから口を開けれなかったんじゃないの? 3日間でフックの位置が動いたとかで、やっと開けられるようになったんじゃないかな」
 ヤマメはメスで、37センチあった。
 盛夏というヤマメ釣りには難しい夏の釣りであり、しかもヤマメのサイズは37センチ。サイズだけでも満足する大きさだが、伊藤の視点は違うところに向いていた。
「今回の釣りは、釣りの楽しさとして素晴らしかったんだ。ヤマメの性質を読んで読みきって、ようやく掛けることができたわけだから。この満足度は大きい。同じ魚のために3回も同じ場所に通ったことは今までないからね。難しい魚だったけど、唯一救われたのは、ルアーに対して興味を持っていたってこと。臆病なんだけど興味はある。それもなければさらに難易度は増しただろうね。とにかく、こういうときは他のポイントで別の釣りをするとかそういうことじゃないから。このヤマメと自分との勝負だったわけ。本当に、十分に楽しませてもらった」
 一筋縄ではいかないヤマメ、そのヤマメとの一対一のゲーム、自分の全てを出し切ってようやくたどり着いた答え。渓流のルアーフィッシングの楽しさが、こんな釣りの中に凝縮されている。  FIN

ライターの付記
 もちろん伊藤さんの釣りのウデは分っているけれど、こんな魚が出てしまうあたり、今年の雫石は釣りやすいのかなと思ってしまいました。だけど、聞いてみると雨が降らないので渇水で釣りにくいのだとか。やはり夏のヤマメは簡単ではないのです。お盆前に帰省して、伊藤さんと釣りをしようと考えている僕には、ひと雨ほしいところです。












「本当にヤマメを釣りたいのなら」 伊藤秀輝 #06
2006年9月17・19日、岩手県
写真=伊藤秀輝
文=丹律章

タックルデータ
ロッド:イトウクラフト/エキスパートカスタムEXC510ULX
リール:アブ/カーディナル3
ライン:バリバス/スーパートラウトアドバンスVEP 5ポンド
ルアー:イトウクラフト/バルサ蝦夷50S



 ヤマメは秋に産卵を向かえ、産卵後は死ぬ。
 稀に産卵後も生き延びる個体もいるが、それにしても、秋の産卵シーズン直前が最も大きなヤマメを狙える時期であることは間違いない。
 だから伊藤は、その時期のために夏の間の下調べも欠かさない。
「雫石の支流で釣ったヤマメはさ、ここなら秋には着くポイントだなって、見つけておいた場所なんだよね」
 本流から産卵のために上流を目指すヤマメが着きそうな場所ということだ。具体的にはどのような場所だったのだろう。
「9月の半ばというと、岩手県北とか標高がある程度あって水温が低い川なら、もう瀬に着いていてもおかしくない時期だけど、この辺はそれほど水温も低くないからその手前の状態だよね。だからまだ大場所に待機している。水深があって流れもある大場所」
 そういう場所を見つけておいて、秋に下流部から遡上してきたヤマメを釣る。それはひとつの作戦の立て方ではある。
 ただ……と、伊藤は言う。
「ただ、秋のヤマメっていうのは、すれているんだよね。だから、そのヤマメを釣る技術がないと、そうそういいヤマメには出会えない」
 春からさんざんルアーを見てきたヤマメは、賢く、ずるくなっている。魚がいても、着き場が分かっても、釣れないことはある。
「遡上魚っていうのは、そういう特徴が顕著だけれど、上って来たところに当たれば、誰でも、どんなルアーにも反応してしまうっていう傾向があるじゃない。だから簡単に釣れることがある。捕れる捕れないは別にしてさ」
 もちろん、偶然にそういうタイミングに当たらなければ釣れないわけだから、それも確率は低いが、確かにビギナーズラックというのは存在する。
「そういうラッキーもありだけど、すれたヤマメが絶対に釣れないわけではない。すれたヤマメを釣る技術っていうのはあるからね」
 たとえば伊藤がホームグランドする盛岡周辺の河川。10年前に比べると、ルアーマンの数は2倍か3倍に増えているという。だが、そのほとんどの人はいい魚と出会えないでいる。川の中を多くのルアーが行きかうことで、魚は神経質になっているのだ。
「中にはさ、テールフックをやさしく突付くくらいのバイトが、たまにあるのかもしれない。でも、それはガツンとあたりになって出ないから、ほとんどの人は気が付いていないかもしれないんだよ。ん? 何か変だなって感じるだけで」
 では、すれたヤマメを釣るキモはなんなのだろう。
「まずは誘いだよね。焦らしてやらなければダメ。ヤマメがいる20センチくらいのエリアにルアーを通して、ガンガントゥイッチングをかけて焦らしてやる。そうすれば、4~5回くらいで、尺クラスのヤマメであれば反応するはずだよ。最初の反応をちゃんと捕らなければダメ。しかも、一投目からちゃんと誘ってやらなければ確率は半減するね」
 一投目から狙った場所にルアーをいれ、最初からガンガン誘ってやることが必要なのだ。キャスティング技術は最低条件といえる。
「たまに一般の釣り人と話してみて思うのは、ヤマメ釣りを簡単に考えている人が多いってことだね。自分からヤマメが見えないから、ヤマメからも見えないだろうとか、ミスキャストしても、3投目くらいでそこに入れば大丈夫だろうとか。ゴロゴロ石の音を立てながらポイントに近づいたり。そんなもんじゃないんだよね」
 充分に離れた位置から、正確なキャストでルアーを投げ込み、きちっと誘う。そういう基本的なことを、軽視している人が多いというのだ。軽い趣味で釣りをするならそれはそれで構わないだろうし、そういう楽しみ方だって釣りにはある。ただ、本当に大きなヤマメを釣りたいと思うなら、釣りをもっと本気で考えなければダメだと伊藤はいう。
「オレはさ、“今日は釣れるかな”と思って、家を出ることは無いからね。いつも、“よーし掛けてやるぞ”って思っている。絶対に釣ってやる、釣れるのが当然。そう思ってワクワクしながら釣りに行くから」
 その日の魚の活性が高かったために、適当にルアーを投げていたら釣れてしまった魚と、自分の持っている技術や集中力を総動員して、その結果ルアーにヒットした魚の重さは、絶対にイコールではない。
「それぞれの考え次第だけど、どうせやるんだからさ、ヤマメ釣りを本気で考えてみてもいいかもしれないよね」  FIN

ライターの付記
 そうです。僕はそれ以前の段階です。まずはキャスティング技術から。まだまだですねえ。






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