「威張れるサイズのイワナを釣ること」 山村佳人 |
2007年5月5日、福井県 写真=山村佳人 文=丹律章
タックルデータ ロッド:イトウクラフト/エキスパートカスタムEXC510UL リール:アブ/カーディナル3 ライン:サンヨーナイロン/GTR 5ポンド ルアー:イトウクラフト/蝦夷50FD(38センチのヒットカラーはYTS)、蝦夷50S
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アユ釣りが大好きで、夏になると郡上八幡に長期滞在してアユ釣りを楽しむ山村佳人さんにとって、長良川は勝手知ったる河川である。アユとともに、トラウトのルアー釣りも大好きな彼は、もちろんアユの解禁前には各地でトラウトの釣りを楽しんでいて、その時期の長良川も、当然トラウトのフィールドとなる。 「ゴールデンウィークに長良川に行くのは、毎年の恒例行事みたいなもんなんだよね」 河口堰の完成以後、サツキマスが激減して生態系という面でも大きな打撃を受けた長良川だが、それでも日本を代表する名川のひとつに数えられるのは間違いがない。 そこで彼は、今年も友人のNさんとともに長良川へアマゴを狙いに行ったのだが、今年は少し様子が違った。 「人が少ないんだよね。ポイント争いという面ではいいけれど、魚が少ないから人が少ないという考え方もできる。そして案の定、釣りをしてみたらこれが釣れないんだよ」 そこで彼らは県境を越えて、岐阜から福井へと移動することにしたのだ。 「峠を越えると九頭竜の水系だから、長良川と九頭竜川の水系を行ったり来たりするのはいつものことで、この支流に入ったのも初めてのことじゃない」 水質はよく、渓相は抜群、そして山の植生もいい。つまり杉の植林ではなく広葉樹の山に囲まれていて、谷底には透明な水が流れている。その支流はそういう川だ。 山村さんは崖をつたって谷底へ降りる。そして、目の前の淵にミノーを放り投げる。30メートルも進むと、魚が反応し始めた。
山村さんと伊藤が出会ったのは釣り雑誌「アングリング」の取材だった。 7年ほど前、スカジットデザインズの皆川哲さんに、カメラマンとして同行してきたのが山村さんで、川を案内したのが伊藤だったのだ。 偶然か必然か、その後も釣り雑誌の取材で何度か顔を合わせ、山村さんはプライベートで盛岡の伊藤を訪れるようになっていった。 「メーカーのモニターってのは、釣りが巧い人だから釣れて当然なわけよ。だけど、一般レベル、下手な人がイトウクラフトの商品を使ったらどうなのか。そういうところを検証するという役割が、オレにはあると思っているんだよね(笑)。岩にぶつけたときの耐久性とかさ」 伊藤に言わせると、2人の関係はこうなる。 「ホームページやカタログに使う写真に対して、カメラマンとしてのアドバイスをもらうんです。それと、釣り業界に長くいるわけだから、そういう経験からアドバイスをもらったりということもあります」 東京-盛岡間はそう簡単な距離ではないので、釣りに訪れるのは年に何度もというわけにはいかないが、電話連絡は毎日のように伊藤のもとへある。そういう関係が今でも続いている。
長良川とは違い、その九頭竜の支流は魚の反応がよかった。サイズこそ20センチ前後のイワナが中心だが、飽きない程度に釣れる。4時間ほどで、2人は合計30匹ほどのイワナを釣っていた。尺イワナもNさんに3本出ていた。 しばらく釣り上ると、目の前に堰堤が現れた。山村さん自身初めて釣りをするポイントだ。 山村さんが右、Nさんが左と決めて、堰堤下のプールに分かれて近づく。 堰堤からの流れ出しに向けて、蝦夷50Sをキャストする。何度かチェイスがあるのだが、なかなかフッキングしない。プールの右端から、徐々に真ん中へ移動しながらキャストを続ける。 「そこで思ったんだよ。なんか、上波に押されて下に入っていない。魚が着きそうなカケアガリをトレースできていないって。だから……」 だから山村さんは、ディープにルアーをチェンジした。 その1投目。 「がつんってルアーが止まって、やっちまったと思ったね。根掛かりしたと。でも、それが動くじゃないの。よく、釣り雑誌で読むみたいにさ」 釣り雑誌の記述のように、その根掛かりが動き出し、プールの底でゴロゴロと暴れる。慎重なやり取りでランディングしたそれは、38センチのイワナだった。 「いい感じの黄色っていうか茶色っていうか、きれいなイワナだったね。実は、湖沼型とか遡上のアメマスとかを除けば、イワナの38センチっていうのは、自己記録なわけ。38センチといえばさ、以前に同サイズを釣ったことがあって、それは伊藤さんと一緒のときだったのね。2人で分かれて釣りをして、再度合流したときに釣れたかって聞かれて、38のイワナって答えたら、あ、そうかって伊藤さんが言ったの」 あまりにもそっけない、しかし伊藤らしい反応ではある。 「あ、そうか、だよ。自己記録の38センチなのに。少しは驚いてくれてもいいと思うんだけど。だからその時オレは、イワナの38っていうサイズは威張っちゃダメなサイズなんだって思ったんだよ(笑)。だからこの魚はあまり威張らずに……いつかは40アップのヤマメを伊藤さんの目の前で釣って、威張りたいんだけどね(笑)」
ライターの付記 山村さん、現実を見失ってはいけません。38センチのイワナは十分に威張れるサイズです。僕はしばらくそんなイワナ釣ってない。40アップのヤマメ? そうね。もし釣れたら、伊藤さんのほっぺたを、尾びれでぺんぺんと叩いてみたいですね。
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