「異常気象の日本を釣る」特別篇 伊藤秀輝 |
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解説=伊藤秀輝 まとめ=丹 律章
【異常気象はもはや異常ではない】
この夏、関東地方では35度という最高気温が珍しくなかった。ゲリラ豪雨も頻発したし、西日本豪雨という甚大な災害も起きた。 10年前とはどうも様子が違う。 最高気温35度も、ゲリラ豪雨も、西日本豪雨の一因となった線状降水帯も以前はそれほど耳にする機会がなかった単語だ。 地球温暖化がどう関係しているのかは分からない。ただ、地球規模で何か異常な事態、今までとは違う何かが起こっていることは、誰もが肌で感じていることだろう。
それは、雪国の春にも表出していると伊藤秀輝はいう。 「春になって雪が解けて、最初に咲くのが水仙なんです。そのあとで、芝桜とかソメイヨシノとかが、2週間くらいかけて咲くのがこれまでのパターンなんだけど、それがここ数年狂ってきています。春になると一気に気温が上がるので、水仙も芝桜もソメイヨシノも一緒に咲いてしまいます。結果、花を見て楽しむ期間が短くなりました」 気温変動は、植物の生育状態を変えた。そして、釣りの環境をも変える。 「2018年の春は、4月5月に急に暖かくなったんです。暑いくらいの日が何日かあった」 伊藤の住む雫石に近い、盛岡市の2018年5月の天気をネットで調べてみたら、15日の最高気温が27度、16日が29度とある。29度といったら真夏の気温だ。ちなみに例年の盛岡の5月というのはまだ春半ば。5月の初めにやっと桜が散ってちょうど新緑が里山を覆う季節なのだ。 「今年は積雪が多く、5月中旬に気温が上がったところに記録的な大雨が重なって、山の雪が一気に解けたんですが、これによる川の増水がすさまじかったんです」 この時期の雪シロの増水は、サクラマスにとって悪い増水ではない……通常規模の増水ならば。 「自然もそんなにヤワじゃないから、通常の倍くらいの異常には耐えられると思うんですが、この時の増水はそんなもんじゃなかった。流れの圧力としてはいつもの10倍くらいの感じ。マスも生きていられないと思いますね、あれだけ川が荒れれば」 その増水以来、サクラマスはめっきり釣れなくなったという。
【渓流にも大きな傷跡を残す】
大雨は、山の斜面から大量の土砂を川に流し込む。これも問題だ。 「渓流では淵が埋まって川が浅くなります。普通はエサが流れてくる筋というのは決まっているんですが、全体的にフラットな流れは、そういう明確なエサの流れる筋を形成しません。だから魚も困るし、流れを読んで作戦を立てる釣り師も困ることになる」 もちろん、大増水によって死ぬ渓流魚もいるだろう。そして、高温、大雨、急な大増水といった異常気象は恒常化しつつある。 「この気象条件は、以前のような状態には戻らないと思うんです。戻る要素が見当たらないから。その中で私たちが釣りを楽しむのは、今後かなり大変になりますね。だけど、私は釣りが好きですから、今後も楽しみたいから、どうにかしたいですね」 釣りのための環境づくりとして、どんなことが考えられるだろうか。 「単純に魚が増えれば、釣れる確率は上がるわけですから、アメリカで始まったみたいにダムを撤去することができれば、かなり魚は増えると思います。ダムが無くなれば海と山がつながり、サクラマスが産卵場所まで遡上することができます。たとえば、今北上川にサクラマスが遡上しているのは、わずかに残ったダムの無い支流が、種川としての役割を果たしているからです。その一つだった簗川にも現在ダムが建設中ですが」 北上川には大きな支流がいくつもあるが、和賀川、猿ヶ石川、豊沢川、雫石川、どれにも途中にダムがあり、サクラマスは産卵場所である上流部まで遡上できない。 「メスのサクラマスは1匹で約3000粒の卵を持っていますから、10匹で3万粒、100匹で30万粒です。雫石漁協は、2018年シーズン用に500キロのヤマメの稚魚を放流したんですが、1匹15gとすれば、放流数は約3万3千匹。親魚11匹で500キロの放流量と同じになるわけです」 もちろん、サクラマスの卵がすべて孵化するわけではないが、自然産卵で生まれたヤマメの稚魚は放流魚よりも強い。他の川で生まれた魚を放流するより、生存確率は高いのだ。 「特に雫石のような厳しい環境の川は、放流された稚魚の生存が難しいんですが、放流するにしても、他の川の養魚場よりその川の養魚場で育った魚がいいし、自然産卵が一番いいのは間違いないんです」 ダムの撤去。夢のような話だが、土砂で埋まってしまって役目を終えたダムに、意味があるとも思えない。 「撤去できないのなら、有効な魚道を作ることで問題は少し解消できるかもしれません」 河川行政が、釣り環境への大きな影響力を持っていることに間違いはない。
【ルアーマンにできること】
異常気象などいくつかの複合的な理由によって、岩手近隣の釣りは、以前より難しくなった、魚が釣れにくくなったと伊藤はいう。 こんな状況の中で、これまでのような釣果を上げるにはどうした対策が有効なのだろう。 「バラしなど、ミスをなくすことが大事です。それには集中して釣りをすることはもちろんですが、シビアな時代だからこそ、タックルを100%の状態にしておくことは絶対条件です。針先を常にとがらせておくことと、ラインの結びを完璧にしておくことは、横着せずに常に確認することで誰でも可能なことですから。ロッドに関しては感度が大切だし、それとやっぱり、ラインはPEですね。伸びが少ないからアワセが一瞬で決まるし、その感度によって水中から伝わる情報量が増大します」 異常気象が恒常化した日本の川。だからこそ、道具を完璧に保ち、技術と集中力を全力で投入することが必要となるのだ。 「それと、単純ですが、釣行回数を増やすことも有効だと思います。ヒットの確率が3割減ったなら、その分早起きして仕事を片付けて休みを取るとか」 とはいっても、伊藤とて、無理をしろと言っているわけではない。 「私は、秋のかっこいいヤマメが釣れる8月9月は、8時か9時には寝るようにしています。早寝早起きで1日の仕事の稼働時間を増やして仕事を集中的にこなして、時間を作って釣りに行くわけです。何かを得るには、何らかの犠牲がどうしても伴います。年々、得ることより、犠牲にすることが多くなってきているのが気になりますけど(笑)」
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「ある噂について」 |
文=丹律章
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エキスパートカスタム(以下カスタム)には、アブがよく似合う。 これは間違いない。 (えー、これは、極私的な話です。偉そうに言い切っていますが、何の責任も負いません。この原稿に関しては、他の釣行記事などと違って、かなり公正さを欠いた、つまりはいわゆる「独断と偏見に基づいた」というやつです。ウソはつかないつもりですが、勢いあまってしまうこともあるかもしれません) 再び言う。カスタムにはアブがよく似合う。 たとえば、ウエダのすっきりとしたグリップデザインには、最新のダイワやシマノの、それこそ6万円位するリールが似合うのだが、カスタムにはやはりアブだ。 たとえば、むき出しのスクリューシート。凹凸のあるリング、反り返ったフォアグリップとグリップエンド。 色調も、コルクのベージュ、ウッドの茶色またはこげ茶、金属のシルバー。これだけ濃いデザインになると、存在感のあるリールでないともたない。弱いリールだと、見た目のバランスとして、ロッドが勝ちすぎてしまう。だからアブなのだ。カーディナルなのだ。 (ロッドとリールに勝ち負けなんてあるのか! と、今、そういったあなた、確かにそうおっしゃる気持ちは分かります。でもまあ落ち着いて。そう目くじらを立てずに、気楽に読み流してください。そうそう。フィクションと思ってもらっても結構です。もしくは別のページに飛ぶとか) それで、僕らはカーディナルを手にすることになる。 C3とか、33とか古いカーディナルにもいろいろあるが、雑誌などでカスタムとセットでよく見るのは、ベージュの3番である。人によっては「ベーサン」と省略する場合もあるようだが、あまり一般的ではないので、ここでは単純に3番と呼ぶことにする。 もちろん、カーディナルの3番にはもう1種類あって、それはC3と同じ形の黒いボディ(カーボンボディっていうんでしたっけ?)に緑色のラインが入ったやつ。それも3番なのだが、今はそれについては複雑になるだけなのでそっとしておこう。 (このへんの整合性についてはちょっと自信ありません。ちょっとそれは違うんだよねえ~というマニアの方、その辺をつつかないように) そう、話はベージュの3番。これが雑誌などで最も露出が多いのは、もちろん伊藤秀輝さんが使っているからで、見慣れているから一番ぴったりとはまる、だから他の人も何となく3番を使うようになるという連鎖なのであろう。 もちろん性能というのもある。 ドラグ性能は国産に劣るが、カーディナルには優れた性能がある。 それは、「ハンドルを回すと軽く返るベイル」であったり、「軽すぎも重すぎもしない回転がルアーの動きや流れの変化を感じられる」ことであったり、まあ僕には詳しく語る資格はないのだけれど、つまりはその道のエキスパートたちは、性能面での3番を選択しているということになる。 アブが最もアブらしかった時代は、1982年ごろまでといわれている。 それは、1979年にアメリカでのアブの代理店であったガルシア社が倒産し、それをアブが買収したことによって、それがアブ社自体の体力を奪い、しまいにはアブ自体が身売りすることになってしまうためで、その時代を境に、アブの製品から魅力がなくなっていくと、言われている。1982年ごろから、アブのロゴも、アブガルシアに変わっていくのだ。 まあ、それはともあれ、1982年前のカーディナルというと、ベージュの3番、そしてその前の33ということになり、この2機種の違いについては僕には分からないのだけれど、それ以降、つまりは33や3番の復刻版は別物であるらしい。僕はしばらく1989年の復刻33を愛用していたけれど。 (このへん、ピュアフィッシングさんにはなんの恨みもありません。不快に感じた方、すいません) それで、ここからが本題。 オールドアブである、ベージュのカーディナル3番。見た目も性能もいいのだが、問題もある。それはメンテナンスだ。作りがシンプルなだけに、手入れも楽で、天下のスウェーデン鋼は耐久性もいい。とは言っても、20年以上も前の製品となると、ある程度の性能の低下は避けられない。 ドラグがやたらとピーキーになったとか、回転が……とか、使っているうちにいろいろな問題が出てくるのである。僕の3番もそういえばガタがきているような……。 そんな時にある噂を僕は聞いたのである。 糸ヨレが解消される、スプールへ平行にラインが巻かれる、スムーズなドラグ性能が得られる、そういうメンテナンスをする業者がある、と。 どこで聞いたかは忘れた。 川で出会った釣り人からだったかもしれないし、フィッシングショーで隣に居合わせた見知らぬ人が噂していたのかもしれないし、盛岡にあるショップ「セイラック」の店主から聞いたのかもしれない。 詳細は忘れてしまったのだが、その業者の名前は覚えている。 それは「ヤマワークス」といい、ヤマワークスでチューンされた3番には「Y-WORKS」とロゴの入った小さなステッカーが貼られるのだという。 ヤマワークスが実在し、現在もその活動を行っているのなら、是非僕の3番もチューンしてもらいたい。もっと魚が釣れるようになる気がするし。 ヤマワークス、もしくはY-WORKS。どこかで聞いたことありませんか?
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