イトウクラフト

TO KNOW FROM FIELD

FROM FIELD

FIELDISM
Published on 2010/04/30

色取月ゆるゆる陸奥紀行
其の三
「怒れる山神の祟りか? 無情のバーストに号泣ス!」

2009年9月某日
岩手の川×うぬまいちろう、伊藤秀輝
文=うぬまいちろう
写真=佐藤英喜

「パン!」

「プシュゥ~!」

「ウニャウニャウニャ~!」

 神の森の怒りに触れたのか! 船のように傾き、異常な走行抵抗で車速がほぼゼロになってしまったT-4ウェスティー。なんと左前タイヤが路肩の尖った石に擦られ、バーストしてしまったのである……!

 前回のコラムで走破性うんぬんと書いたが、肝心のタイヤが切れてしまえば、ハイ、それまでよ!なのである。

 T-4ウェスティーに履いていたタイヤは、乗り心地優先のコンフォートな仕様である。プライ数の多いオフロード用のそれとは違って、タイヤサイドは皮一枚のめちゃ薄仕様で、尋常でない摩擦や衝撃は想定外なのだ。

 同じゴム製品の中には、極限まで薄く仕上げることをモチベーションとした、『明るい家庭の生産プラン』をスローガンとする素晴らしき製品もあるが、ことタイヤに関していえば、薄けりゃいいというものでもない。

「ありゃりゃ~! またやっちゃった~!」

と、とりあえず零すボク。

 『また』というのは、当然、前例がいろいろあるからのことで、このT-4ウェスティー号、齢(よわい)14年選手にして、走行距離23万キロに迫るご老体で、トルコンスリップ、ドライブシャフトのボルト折れ、クーラントパイプ破裂、マフラー脱落……、などなど、あまたのトラブルを出先にて誘発。そのたびにそれを乗り越えてきた、いにしえの車両なのなのである。

「ありゃりゃりゃ~、いやいやいや~、うぬちゃん、大丈夫かい?もっとゆっくり行けばよかったねぇ~」

 とりあえずジャッキアップのため、なんとか舗装路に移動したのち、急ぎ駆けつけてくれたアニキが汗をかきかき、スペアタイヤの交換を手伝ってくれた。

 アニキはボク以上に気を遣ってくれている様子であったが、このクルマ、水と寝床と暖房には事欠かないキャンピング仕様だし、異国の砂漠地帯と違って、狭い日本、とりあえず止まってしまっても命が取られることはない。

 そんなこんなで、ピンチの時こそ果報は寝て待て……、と開き直ることが実はココロに良きことで、結果、良策への近道となるのである……。

 しかしながら、今回は次の釣り場に急がねばならないので、ふたりで汗を拭きながらタイヤ交換成就!

「バンザイ~!」

と、喜んだのもつかの間、なんと、せっかく交換したスペアタイヤは、みるみるうちにしぼんでしまい、T-4ウェスティーは再び浅瀬に座礁した船のように傾き始めたのである。

「う、うぬちゃん、山神様の天罰でねぇの?普段の行いがやばかったんでねぇのぉ……???」

 アニキの心配は無理もない。一難去ってまた一難とはこのことである。なんとこのスペアタイヤ、あまりにも放置が長かったせいで、バルブのゴムが劣化して亀裂が生じており、そこに車重で急に圧力がかかったせいで、空気がシューシュー漏れ始めたのである。

 で、当たり前の英断で、とりあえずスタンドを探すこととなったのだが、なにしろ空気がほとんど抜けてしまったうえに、更に車重が乾燥重量で2.3トンを超えるT-4ウェスティーだからして、移動では至極ゆっくりと進むしかない。虫ちゃんが這うほどのスピード、超スローの牛歩である。

「こっ、このままでは日が暮れてしまう!というか、野犬かイノシシかツキノワにでも、食われちゃったらどうしよう……!」

山中で行く手を案じるボクらであったが、なんのこっちゃない、タイヤ交換地点から少し行くと、すぐにガソリンスタンドの看板が見えた。その距離およそ300メートル!

「天の救いです。こういうときこそ、普段の行いがものをいうのです……。一日一善。山の神様と、お父さんお母さんを大切に。六根清浄(ろっこんしょうじょう)!」

 先ほどの不名誉な指摘を撤回すべく、脈絡無くアニキに凄んだボクであったが、

「ん~、したっけ、そもそもパンクしたのが、うぬちゃんの普段の行いのせいじゃないの? あはあはあはぁ~!」
と、一笑されてしまった。悔しいけどまぁいいか……。

「軽トラ道走ったらやられましたぁ……」

 スタンドでこのようになってしまったいきさつを話したら、

「あはあはあはぁ~!」

と、今度は店員さんに思いっきり笑われた。というか大ウケした。そもそも道の轍がトレッド幅の限界を超えていたのだから仕方ない。悔しいけどまぁいいか……。

「名誉の負傷です。百尺竿頭一歩を進む(ひゃくしゃくかんとういっぽをすすむ)スパルタ釣り集団のアニキとその仲間としては、このくらいの犠牲はやむを得ないのであります……!」

 ボクは山釣りのちょっとした厳しさを説いたつもりであったが、店員さんは、

「うはぁ~! すげぇ~! あはあはあはぁ~!」
と、無造作に積まれ、裂けたタイヤを見て大喜びで、釣りの話には全く興味がない様子であった……。

(おサカナ無しのまま、またしても次回に続く……、許せ!&三度目の正直で次に好ご期待!)


 良き釣りと良き旅を……。

 ラヴアンドピース!

TACKLE DATA

ROD Expert Custom EXC510UL/ITO.CRAFT
REEL Luvias 2000/DAIWA
LINE Applaud Saltmax Type-S 4Lb/SANYO NYLON
LURE Emishi 50S & 50S Type-Ⅱ/ITO.CRAFT

ANGLER


うぬまいちろう Ichiro Unuma


イラストレーター

1964年、神奈川県生まれ。メインワークのイラスト制作のほか、ライター、フォトグラファーとしても各メディアで活躍中。日本各地をゆるゆると旅しながら、車、アウトドア、食、文化風習などをテーマにハッピーなライフスタイルを独自の視点から伝えている。釣りビジョン「トラウトキング」司会進行。モーターマガジン誌の連載「クルマでゆるゆる日本回遊記」では、キャンピングカーで日本一周の旅を敢行中。