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アールクロスだからこそできること
文=丹 律章

3シーズンのテスト期間を経て

 2018年、イトウクラフトはR-CROSS(アールクロス)というスプーンを発売した。蝦夷スプーンの発売から長い期間を経て、何故今新しいスプーンの発売なのか、何故この形状なのか。川でのテストを繰り返しながらプロトの開発を担当した伊藤秀輝と、その手作りのプロトを製品にする工程を担当した伊藤大祐に、アールクロスの秘密を聞いた。

――まず、このスプーンの対象魚を聞かせてください。

伊藤秀輝(以下:伊藤)「本流のサクラマス、しかも、雪シロが河川に流入している時期のサクラマス釣りのために作りました。もちろん、湖で使っていただいても構わないのですが、設定としては、雪シロ期の川のサクラマスです」

――山に降った雪が、春になって解けて川に流入するのが雪シロですが、その時期の釣りは特殊なのでしょうか。

伊藤「ご存知の通り、2015年に秋田県の規則が変わって、米代川、雄物川、子吉川では、サクラマス釣りが4月1日からできるようになりました。それ以前は6月1日解禁で、雪シロはとうに終わって、水量が落ち、水温も上がってから、つまりは、サクラマス釣りにはちょっと厳しい初夏に解禁となったのですが、2015年以降は、4月5月に釣りができるようになったわけです。6月の温い水温での釣りよりはずっといいのですが、雪シロによる水温の低下と増水の状況では、釣り自体が難しいという問題が出てきたんです」

――水量が多くて悪くないような気がしますが。

伊藤「少しの増水なら問題はないのですが、雪シロの最盛期である4月の中旬頃の水量は、雪シロ前の倍以上になるんじゃないでしょうか。流れも速くなり、押しが格段に強くなります。6月のサクラマスなら、蝦夷スプーンでも釣りになるのですが、雪シロ期の流れの強さでは全然思うような釣りができないんです。たとえば、同じ速さで川の水が流れていても、中規模河川と、米代川のような大きな川で膨大な水量が流れている場合とでは、流れの圧力のケタが違いますから」

――その違いは、具体的に釣りにはどのような影響を及ぼしますか。

伊藤「流れの抵抗が強いと、スプーンが回転してしまったり、流れが早い分ボトムに沈むまでの距離が必要となるので、サクラマスのいそうな場所から逆算して、どこに投げてボトムまで沈めてという計算やコントロールが難しくなります」

――発売までに、時間が掛かったのは何故でしょうか。

伊藤「2015年の4月に米代川でサクラマス釣りをして、新しいスプーンの必要性はすぐに感じました。それで、その春のうちに開発を始めたのですが、川の流れは日々変わっていくので、難しい面もあるんです。たとえば、サンプルのスプーンを持って米代川に行って釣りをして、問題点を感じて帰宅したら手直しをして、翌週また米代川に行くと、前の週より水が増えて押しが強くなっていたりする。米代まで頻繁に通えないから、近い北上川でテストしようとすると、流れは同じようなスピードでも、押しが違うので思ったようなテストにはならなかったりもしました。これだけ時間が掛かってしまったのは、そういうことなんです」

――4月1日の解禁から中旬にかけて水は増え続け、その後は少しづつ治まっていく。同じ水量が続くわけではないんですね。

伊藤「解禁当初は、まだ気温が低いので雪はそれほど解けません。だから川の水温は低いのですが、水量は多くないんです。それから春めいてきて気温が上がるにしたがって、平地の雪が解けて、雪シロが入り始めるんです。4月中旬になると、気温が20度に上がったりして、そうなると山の雪も解け始めるので、本格的に雪シロが入り始めるわけです。雪シロによる増水は、例年ならGW前がピークですが、もちろんその年によって前後することはあって、今年は雪が多いからピークが後ろにずれて、GWは大増水かもしれません」

――雪シロが治まるあたりが、サクラマスにはちょうどいい時期なんでしょうか。

伊藤「そうですね。雪シロが治まり始めてから、田んぼの代掻き水が川に入って濁り始める5月中旬までの2~3週間が、魚の活性などを考えても、一番いい時期だと思います」



形状は細身の一択

 スプーンにはいろいろな形状がある。代表的な2種が、蝦夷スプーンやバイト(セントラルフィッシング)などのティアドロップ型と、このアールクロスやサラマンダー(クサモン)などの細身のタイプだ。ハスルアー(ルーハージェンセン)のようなへの字型や、アブのカレバのように円に近いもの、トビー(アブ)のような羽根がついたタイプもあるが、自然のフィールドで使われるスプーンの半数以上は、ティアドロップか細身のタイプだろう。

――アールクロスがこの形状になったのはどうしてでしょうか。

伊藤「蝦夷スプーンは渓流のアップストリームで使ったり、湖とか、減水してからの本流サクラマスなどを想定したスプーンなので、幅広で水をよくつかむ形状が適していますが、雪シロ期の押しが強い流れなら、幅が狭い細身のスプーンだろうなと、最初から考えていましたね」

――素人考えですが、流れに負けないように、蝦夷スプーンの形状のまま重さだけを増量するっていう方法は無しでしょうか。

伊藤「重くするためにサイズを大きくしたのでは飛距離も沈みも悪くなるからNG。同じサイズで重くするには板を厚くしなければならなくて、厚過ぎると泳ぎが悪くなるんです。蝦夷の一番重い24gは大きさが65㎜なんですが、あの大きさであれ以上の厚さは無理が出てきます。アールクロスの場合も、3サイズとも68㎜で、厚さで重さを調整しているんですが、あれ以上の厚さにすると、泳ぎが悪くなって、アール具合をイチから設定してやる必要が出てきます」

――アールの話が出てきたので、そのままアールについて聞いていきます。細身の形状が決まったら、あとはアールの設定が大事になってきますね。そのアールデザインに3シーズンかかったということでしょうか。

伊藤「そうです。強い流れの中でリトリーブした時に、回転せずに泳いでくれる、そのバランスを出すのが大変でした。20年以上前にドリフトの釣りで使っていた、あるスプーンは、アールが小さいので沈みが早くていいんですが、流れに弱くてリーリングすると回転してしまうので使いにくい。ドリフトの釣りだけなら、リーリングは関係ないのである程度は泳ぎを犠牲にできますけど」

――ちょっと話を整理しますね。ドリフトというのは、いわゆる川底を転がすという釣り方のことでいいでしょうか。

伊藤「ボトムだけでなく、中層のドリフトもあります。川底なら、サイドとかアップクロスにキャストして、ラインスラックをとりながら沈めて、コツコツとボトムをコンタクトするくらいでドリフトさせる。中層の場合は流れの抵抗を感じながらドリフトさせます。どちらの場合も、ルアーが下流に流れてラインが張って、ルアーがターンを始めて、ターンの終わりごろにドラッグが掛かって、スプーンがふわっと浮上する瞬間にサクラマスは食ってくることが多いんですが、そういう深いレンジのドリフトの釣りだけを考えるなら、スプーンの泳ぎの質にはそれほどこだわらなくてもいいんです。ボトムを転がったり流れの中を漂ったりしたあとで、ちょっと浮上するだけですから。ただ、その後、リトリーブしながらも回転せずにきっちり泳いで、サクラマスを誘ってくれるスプーンを私は作りたかったんです」

――底をとってドリフトさせるためだけなら、ただアールの小さい、抵抗の少ないスプーンでいい。だけどそれじゃリトリーブでちゃんと泳がないから、スプーンを湾曲させてアールを作ってバランスをとるわけですね。

伊藤「そうですね。アールが強すぎると回転するし飛行姿勢も悪くなるので飛距離も出ない。だから適度に水をつかみながら、必要以上の流れの圧力をうまく逃がすデザインが大事だと思います。逃がさないとスプーンは回転してしまいます。流れをつかむことと逃がすことのバランスが大事なんです」

――回転せずに、流れをつかんで泳ぐスプーンというのはこれまでなかったのでしょうか。

伊藤「スプーンというルアーは、ヨーロッパから日本に入ってきたものが多いと思うんです。アブにせよ、パラバンにせよ、クサモンにせよ。そしてその多くは湖での釣りを想定して作られたもののように思うんです。だからそれらを流れの中で使うと、抵抗に負けて回転してしまう。海外のルアーを真似しつつ、改良を加えて作った日本製のルアーも、そういう特徴のものが多いと思いますね」

――飛びという面では、スプーンの厚さにテーパーをつけることで飛距離を稼ぐスプーンも存在しますが、そういう方法は考えたのでしょうか。

伊藤「雪シロ期は、水際の柳が水をかぶるくらいの水量で、川幅も広がってポイントが遠くなるので、飛距離というのは絶対に必要です。その飛距離だけを見れば、ブランクの厚さを変えて後方重心にするのはとてもいい方法だと思いますが、やはり泳ぎの面が食われてしまう。泳ぎを考えると均一の厚さの方がいいんです。均一のブランクでも飛距離が出るめどが立ったので、厚さを変えるという方法は捨てました」

――実際の作業としては、どういうことをしたのでしょうか。

伊藤「製品は真鍮製なんですが、プロトは銅製です。比重が近くて、柔らかいので加工がしやすいんです。それを持って釣りに行って、改良点を見つけて、戻ってきたら、ハンマーとペンチで曲げて、何パターンか違うプロトを作って、それを持って川に行く。その繰り返しです。最終的な詰めのテストのときは、作業台を河原に持っていって、現場で手曲げで調整しながら、テストしたりもしましたね。その時は、弁当持参で5~6時間河原にいました(笑)」

――製品となったのは、18g、22g、24gの3サイズですが、これの理由を教えてください。個人的にはもっと重いのがあってもいいと思うのですが。

伊藤「先ほども触れましたが、この68㎜というサイズでは24gが厚さの限界に近いんです。これ以上厚くて重いと、泳ぎの部分が難しくなるしタックルバランスも含めて、別の型も必要になるし。それと実際問題、18gを使う人が一番多いんですよ」

――これで雪シロ期のサクラマス釣りが、一歩進化しますね。

伊藤「サクラマス釣りは、今はミノーが主流になったんですが、ミノーっていうのは、多少リトリーブスピードが速くても遅くてもそれなりに泳いでくれるので、ある程度アバウトでも釣れるんですが、スプーンは回転させずに泳ぎを維持するのが難しい釣りなんです。それが、アールクロスだと回転させずに泳がせることが容易なので、サクラマスに出会う確率も高まると思います」

――バランスがいいのでルアーの回収中にラインを拾うことが少ないと聞きましたが。

伊藤「そういうトラブルが少ないので、釣りの中にロスが少なくなるはずです。ロスが少ないと釣りが快適になります。釣果的にもプラスになるハズです」


蛍光カラーへの挑戦

 アールクロスの現時点でのカラー展開は10色。蝦夷スプーンから続く、魚の顔が描かれたデザインが6色に、蛍光色のベースに楕円のマークが並ぶ、これまでイトウクラフトには見られなかったデザインの4色が加わっている。この10色のラインナップになった理由は何だろうか。

――魚の顔があるナチュラル系6色はこれまでの流れを踏襲しているので分かりやすいのですが、残りの4色について、このカラーにした理由を教えてください。

伊藤大祐(以下:大祐)「理由は、正直ひとつではないんです。いろいろな要素がごちゃ混ぜになって、複雑に絡み合って、結論としてこの4つになったんですけど……」

――では、その「いろいろな要素」の部分をひとつ一つ教えてください。

大祐「ひとつは、これまでのイトウクラフトの良さを残しながら、新しいカラーをラインナップしたいというのは気持ちとして持っていたんです。だから、ナチュラルカラー系に加えて新しめの色を入れてみようと思っていたんですね。蛍光色という選択は、ロシアのキングサーモンの釣りから発想のベースを得た部分があります。カムチャッカとか太平洋側のロシアですけど、あの辺では蛍光色が多く使われている。しかもピンクがやたらと使われているんです。ロシアは、蛍光色の歴史が長いのかもしれません。スプーンに限らず、渓流で使うルアーはナチュラル系、サクラマスなど遡上魚の釣りには、より目立つカラーに需要があるというのも、蛍光色を採用した理由のひとつです」

――日本の文脈の中にはない、海外のルアーから発想を得ているわけですね。

大祐「子供の頃に親が持っていた海外の古いルアーには、独特のデザインやカラーがあって、なぜこういうデザインになったのか、作った人の気持ちを考えていた時期もあって、また懐かしさを伴ったレトロ感が釣りという遊びにワクワク感をもたらしてくれるので、そういうところは大事にしたいなと思っています。昔と現在の融合として、他にはなくイトウクラフトらしく、かつ自分らしいデザインを表現しました」

――中央に線が引かれて、それに楕円のデザインが組み合わされて、周辺に小さな点が散りばめられているわけですが、どういう経緯でここにたどり着いたのでしょうか。

大祐「線は魚の側線で、楕円はパーマークをイメージしていると言えばそれはそうなんですけど、それと並行して、楕円形状を考えているとパーマークが仮面ライダーの目のようだなって思ったっていうのも、少しはあるんです。子供の頃に好きだったヒーローのイメージというんでしょうか。このスプーンは雪シロ期のヒーローになってくれる。的な(笑)」

――ベースカラーは、緑、ピンク、黄色、オレンジですが、この4色はどうやって決まりましたか。

大祐「最初に決まったのは緑なんです。トラウトの人というか自然が好きな人って緑が好きじゃないですか。それと、これもやっぱり仮面ライダーのイメージ……少しは入っているんですよね(笑)。ピンクはやはりロシアのキングサーモン釣りのポピュラーカラーというのが大きい。4つの蛍光色の中でのバランスもあるんですが、オレンジはイクラかなあ。マスやサケが産卵のために川へ遡上してくるという意味合いで卵=イクラに繋げました。黄色は最後まで悩んだ色ですけど、釣り人からの視認性が一番いいというのが採用の後押しになったと思います」

――カラーリングを聞くだけでも苦労の跡が見えますが、プロトスプーンを製品に落とし込む作業というのも相当苦労したと聞きました。

大祐「テストを繰り返して一応の完成を見たプロトスプーンは、ハンマーとかペンチとかで手曲げしたものなんです。だから、左右が非対称なのは当然で、それを元にその微妙なカーブを整えてなだらかにつなぎ合わせて左右対称な3Dのデザインを作り、改めて重心や中心軸を調整します。それを元に実際のスプーンの試作Aを作るんですが、この左右対称の試作Aが、左右非対称の手曲げのプロトと同じ泳ぎをするわけがないんです。だから次の作業としては、試作Aを川に持っていってテストして、Aを手曲げして、納得いくA’を作ったら、それを3Dに起こして試作Bを作ります。それをテストしてB’を作って3D化して試作Cを作って……」

――そりゃ大変だ(笑)。

大祐「3D、テスト、手曲げ、3Dという作業を10回くらい繰り返しました」

――完成まで3シーズンかかるのもうなずけますね。



アールクロスという名前に込められた希望

東北から北海道に住んでいた民族の呼び名である蝦夷(えみし)は、イトウクラフトの代名詞的な名称でもあるが、今回のR-CROSS、アールクロスは、民族も漢字も入らない、新しい方向性を示唆した名称でもある。

――まず、アールは何を意味しているのでしょう。

伊藤「円弧上のデザインを意味するR、アールが語源です」

――RはRIVERのRかと思ってました。

伊藤「スプーンの泳ぎに大きな影響を与える、テールのアール、先端のアール、そのアールですね。それと、サクラマスはサイドからダウンの釣りになるので、流れを横切るクロスストリーム。そのクロスを付け加えました」

――ロゴのデザインも変わってますね。

伊藤「これは、大祐がデザインしたんですが、Rの左側から右下へ伸びる曲線は荒々しい水面で、上方に突き出た部分は、流れの中を遡上するマスの背びれをイメージしています。さらにそれらをセットで見ると鼻曲がりのマスの顔にも見えるようにデザインされています。キングサーモンを彷彿するような力強い立派なマスをこのスプーンで釣り上げるという思いが、このロゴデザインに込められているんです」

――3年の年月を経て完成したアールクロスですが、サクラマス釣りの可能性を広げるルアーであることは間違いなさそうですね。

伊藤「現在、渓流のみならず、サクラマスの釣りもミノーやバイブレーションなどプラグの使用率が高いんですが、やはり、飛距離の面や深いレンジを探るという意味で、スプーンは無くてはならないルアーだと思うんです。確かに、使いこなすには一定の技術が必要なのは事実ですが、アールクロスは、ある程度使いやすい仕上がりになっていますので、釣りの組み立てに幅を持たせることができると思うんです。これを機に、スプーンの釣りの深さを再発見して、使いこなせる人が増えてくれると嬉しいですね」

 ひと昔前の釣り雑誌では、スプーンのことを「何の変哲もない鉄片」と表現することがあった。そういう記述を何度か目にした覚えがある。
 変哲とは、取り立てて言うこともない、他と変わりがないという意味であり、スプーンが鉄片であるのは事実であるにしても、「何の変哲もない」わけはないのである。
 変哲があるからこそ、魚は釣れる。そこには、開発者の意図が凝縮され、他のスプーンとの違いを生み、結果、取り立てて説明することだらけの鉄片となっている。アールクロスは、増水したサクラマスの川で、その変哲の理由を証明してくれるだろう。




 

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